大規模修繕工事の周期伸長に向けたタワーマンションの取り組み

さくら事務所が提案する大規模修繕工事の施工会社選定方式「プロポーザル方式」。実際に導入したマンションの修繕委員にお話を伺いました。

今回プロポーザル方式で施工会社選定を行ったのは、都内にありながら自然あふれる眺望に恵まれたあるタワーマンションです。

大規模修繕工事の周期伸長に組合の理解は得られるのか?

さくら事務所(以下、さ):大規模修繕工事の情報収集をされる中で、さくら事務所の勧める「大規模修繕工事の周期伸長(高耐久化工事)」に関心を持っていただいた、と伺っています。

「大規模修繕工事の周期伸長」とは高耐久化の大規模修繕工事を行うことで、1回の工事費は上がっても長期的に見て大規模修繕工事の回数を減らすことができ、トータルの工事金額を抑えるという考え方です。

くわしくはこちら・・・プロポーザル方式の大規模修繕工事、進め方とメリット&デメリット

 

修繕委員(以下、修):はい、ですが高耐久化工事にあたっては懸念点もありました。

まず、実際に高耐久化工事の実績がある施工会社をどう選べばいいのか?ということです。

更に、今回の工事を高耐久化の仕様にすることで上乗せされる費用が、本当に長期的なコストダウンで回収できるものなのか?この点を組合員に理解してもらえるだろうか?という点も不安がありました。

さ:そこで専門家の活用をお考えになったのですね。

修:そもそも、修繕委員をはじめ住民側に工事関連の専門知識がなく、高耐久仕様による費用増大と修繕工事範囲の絞り込みによる費用低減のバランス調整など、自分たちだけでは困難だと思いました。

管理会社からも施工会社選定サポートの提案はあり、組合員の中には管理会社からのサポートを望む声もありました。ですが、管理会社はマンションの修繕積立金の額を把握しているため、その金額ありきの工事にあってしまわないかという点が気になりました。

決め手となったのはその考え方と第三者性

大規模修繕工事の設計監理方式を受けない理由さ:さくら事務所にご用命いただいた決め手をお聞かせいただけますでしょうか?

修:さくら事務所に決めた理由は大きく3つありました。

まず、管理費の見直しや長期修繕計画の見直しなどの過去のやりとりから長くマンションの建物や組合員について知っていたということ。

次に、さくら事務所の薦める大規模修繕工事の周期伸長による長期的に見たトータルコストの削減や、工事範囲や内容の絞り込みから工事費用も適切に抑えられるだろうと期待していたためです。

また、マンション管理会社や施工会社の利害とは無関係の第三者の立場でコンサルティングを行っていることもポイントの1つでした。とにかく施工費を削るのではなく1回の工事費用は上がっても修繕周期の長期化でコストを削減しつつ、資産価値を保持するという考え方が、組合員の多くの支持を得ることができました。

実際、同時に検討していたコンサル会社より見積は高額でした。ですが、その会社は設計監理方式を採用しており、工事内容ではなく金額ありきになってしまうのでは、という不安がありました。

施工会社選定を含むコンサルティング費用はせいぜい大規模修繕工事費用の1~2%。最終的に見積もり段階での工事内容の精査で、その差額は吸収できました。

「プロポーザル方式」を実際にやってみて・・・

さ:実際にプロポーザル方式による施工会社選定方式をやってみていかがでしたでしょうか?どんな流れですすめられたのでしょうか?

修:まず、書類の審査で施工会社候補を絞り、3社からプレゼン受けることになりました。

それぞれ特徴ある施工会社でしたが、提案された工事内容や見積額を適切に比較できるよう、補正・修正する作業は専門知識がないと難しかったです。専門家(コンストラクション・マネージャー)のサポートがなければ、金額の比較に陥りやすい状況でした。

例えば、ある施工会社ではタイルの交換割合が低く設定されており、見た目の金額は抑えられていましたが、最終的には実数精算になりますので、見積条件を同じにして比較するとまったく違う結果となりました。

結果として、提案内容について一番評価が高かった施工会社がコスト的にも一番有利だということがわかり、スムーズに意思決定を行うことができました。

必要な工事箇所や高耐久仕様の工事内容についてもじっくり見極めることができました。

まだまだ大規模修繕工事の情報についての情報は少ない

大規模修繕工事に関する情報さ:今回、大規模修繕工事を行ってみて「大規模修繕工事に関する情報がまだまだ少ない」と感じたと伺いました。

修:最終的に契約した施工会社は、耳にしたことのない会社でした。ですが、情報を集めるうちに、大規模修繕工事においていかに「塗装工事」がいかに重要であるかということ、この会社は塗装の分野での経験が十分にあり、更に大規模修繕工事の業界でもトップクラスの実績ともわかりました。

あらためて、大規模修繕工事についての情報がまだまだ一般の人には収集しにくい状況だと感じました。

プロポーザル方式のメリット、デメリット

さ:プロポーザル方式のメリット、デメリットはどんなところにあるとお考えですか?

修:メリットは、先にあげたように、必要な工事箇所や、高耐久化仕様の工事内容など、コンストラクション・マネジャーの力を借りながらも、自分たちで見極めることができるという点ではないでしょうか。

また、提案会社からの見積額が資料提出からプレゼン、再提案などを経て徐々に工事費用の見積もりが下がり、結果として当初の想定していた一戸あたり100万円に総額を抑えることができました。

実際のプレゼン後の各社比較においては非常に有益なアドバイスをいただけたと感じています。当初、大規模修繕工事に必要と言われていた事前の建物診断が不要となり、その費用が浮いた事も大きかったです。

(さくら事務所では、大規模修繕工事前の高額な劣化診断はおすすめしていません。
くわしくはこちら・・・大規模修繕工事、先延ばしして大丈夫?劣化診断にセカンドオピニオン

デメリットは、手間と時間がかかることです。修繕委員では先行する長期修繕計画の見直しからコンサルティング依頼先の選定、施工会社の選定から理事会説明、組合員説明など2年以上に渡る活動となりました。

説明資料の作成から理事会出席、説明会出席や全ての施工希望会社からのプレゼン出席など、かなりの時間と労力をつぎ込む組合員がいないと難しいと思います。

健全な修繕積立金計画がマンション全体の価値を保つ

さ:大規模修繕工事に先立ち、長期修繕計画の見直しもされたのですね。

修:1回目の大規模修繕工事を迎えるに当たって、長期修繕計画からの見直しから始めることをさくら事務所から提案されました。

結果として、非常に役に立ったと思います。

1回目工事の検討段階から2回目以降の大規模修繕を考えておくこと、建物だけでなく電気機器やエレベーター、駐車場などの設備交換の費用なども含めて考えておくことで1回目工事にかけられる予算額が想定できました。

健全な修繕積立金計画がマンション全体の価値を保っていくことになることを勉強させていただきました。

大規模修繕工事を終えて、さくら事務所に今望むこと

さ:実際に工事を終えられて、大規模修繕工事の課題についてお気づきのことなどありますか?

修:一部の熱心な方はおられますが今回も一戸あたり100万円という大きな費用負担となる大規模修繕工事にも関わらず組合員の関心もまだそれほど高くないようにも感じます。

修繕委員として、できるだけ丁寧に組合員への説明会や定期総会での報告をしてきましたが、全ての組合員にきちんと理解してもらっているのか不安もあります。

マンション管理の重要性やきちんと維持管理されているマンションの資産価値がもっとわかりやすく評価されるようにする活動を、さくら事務所さんにも期待しています。


「健全な修繕積立金計画がマンション全体の価値を保っていくことになる」という言葉が印象的でした。

プロポーザル方式は、確かに設計監理方式や責任施工方式に比べると、組合の皆さまの負担は大きくなります。ですが、手間を掛けながらも納得できる結果を得ることができた、というお声もしばしば伺います。

大規模修繕工事を控えた皆さまはぜひご参考になさってみてください。

 

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