マンション大規模修繕工事の施工会社の選び方と注意点

マンションの大規模修繕工事では「どこの施工会社にお願いするか?」も重要ですが、それ以前に「どうゆう方式で施工会社を選ぶか?」も大きなポイントです。

「工事も見積りも、管理会社に丸投げでは適切な大規模修繕工事はできない」

「設計会社やコンサルティング会社などの第三者に入ってもらう際には、談合や不適切コンサルに気を付けなければいけない」

「自分たちで見積りを取って施工会社を比較したりするには、専門知識や経験が必要」などなど…

いろんな情報が飛び交う中で、どう進めるかで頭を悩ませている理事さんや修繕委員さんもいらっしゃるでしょう。

ここではさくら事務所のマンション管理コンサルタントが、大規模修繕工事の代表的な施工会社選定方式におけるそれぞれのメリット、デメリットについて解説します。

施工会社選定方法①:責任施工方式

管理会社に修繕工事の仕様作成や工事、チェックまですべてを任せる方式。

管理組合とのコミュニケーションが良好で、業務も円滑に実施されている管理会社に大規模修繕工事をお任せするのです。

「日頃から付き合いがある管理会社に任せたほうが安心」「普段マンションに出入りしていない工事会社の人間が出入りするのが嫌」「相見積もりをとるのが面倒」といった理由で採用されることが多く、管理組合にとっては最も手間のかからないやり方です。

一方で、工事品質のチェックや工事価格が不透明な部分があり、工事の手抜かりを見逃したり、工事価格が割高になる可能性もあります。

工事価格の透明性や客観性は、複数の工事会社と相見積もりを行うことなどにより、ある程度担保することが可能ですが、相見積もりを行う施工会社による談合が行われていないことが前提です。

「工事会社は住民からの公募も含め3社以上を募り、管理会社だけの推薦はさせない」また「見積書は必ず理事長宛てに提出させ、業者選定の会議の場で一斉に開封する」などして、談合の芽を一定程度つむことができます。

管理組合に修繕工事に詳しい方がいる場合には、施工品質のチェックを行うことが可能ですが、いない場合には、工事品質のチェックを行う業務をコンサルタント会社やマンション管理士、設計事務所などに依頼する方法もあります。

施工会社選定方法②:設計監理方式

設計(工事仕様の作成)や見積もりの精査から工事品質の監理(チェック)まで、工事会社とは異なる設計事務所やコンサルティング会社に依頼する方式です。

責任施工方式に比べると、第三者が介在する分、工事品質や価格に客観性を得やすいメリットがあります。

第三者には工事費の7〜10%程度の手数料を払います。

工事費用の他に設計・監理業務を依頼するコストが必要になりますが、見積もりの精査などにより、その費用を超えるコストダウン効果が得られることもあります。

しかし本来、公正中立な第三者として機能しなければならない設計・監理者が、工事会社の選定などに際し談合を主導したり、特定の業者に便宜を図ったり、工事会社からバックマージンを受け取るなど、残念な結果があることも事実です。

大規模修繕を適切に実施するためには、専門的な知識・経験を持ち、客観的に判断できる第三者的立場の専門家のサポートが必要不可欠です。

責任施工方式、設計・監理方式のいずれの場合でも、「工事の関係業者が管理組合の期待に応える業務を行う」という条件を満たしているならば、問題はありません。

これは、工事会社や設計事務所、コンサルティング会社が信頼できるか否かの見極めがポイントになります。

しかし、いくら談合防止の手を打ったとしても、それでも業者間の談合を疑う事態になった際には、いったん立ち止まる覚悟が必要です。

管理組合の側に立つべき設計会社やコンサルティング会社が義務を果たさず、管理組合に損害を与えた場合は、損害賠償を請求できる可能性が、工事の手抜きや手抜かりを見逃したこと、バックマージンを受け取ったことを管理組合が立証しなければなりません。

現実問題として不正を告発し、法的責任を問うのはハードルが高いでしょう。

施工会社選定方法③:プロポーザル(提案)方式

さくら事務所が行っているのが、各工事会社の提案力を比較する「プロポーザル(提案)方式」による工事会社選定方式

大規模修繕工事において、癒着やバックマージン、談合といった管理会社や設計会社が作り上げた巧妙な負のスパイラルに、知らないうちに陥っている管理組合は少なくありません。

公共工事などで問題となる、建設業界における談合や賄賂などの不正が、マンションの改修工事においても常態化しています。

このような現状に対して、2017年1月、国土交通省からは大規模修繕工事の発注で設計コンサルタントを活用する際の注意を促す通知が出されています。

プロポーザル方式は、設計会社やコンサルティング会社が入るのは設計・監理方式と同じですが、第三者性を担保するため、工事会社などの選定代行、見積もり依頼代行、設計業務および修繕工事の受注・斡旋はせず、その上で、複数の工事会社から工事範囲や工事内容の提案を受けます。

またその際、工事の仕様書を作らずに「要望書」を作り、その要望を満たす工事方法や数量・金額などを提案してもらいます。

この方式は、シンプルに数字を比較できるようにするため共通の内訳書・仕様書が決められている前2方式と異なり、単純に数字を入れるだけで入札に参加できるわけではなく、そのマンションにあった工事を提案(プロポーザル)する必要があることから子細な調査や検討を行う必要があるため、見積もりを出すのに手間がかかることもあって、談合をしにくい方式です。

業者の比較・選定に一定の時間と手間がかかるものの、工事会社の提案力・企画力を比較でき、より適切な工事方法を選択し、結果としてコストダウンもできる可能性も高まります。

関連コラム・・・「プロポーザル方式の大規模修繕工事、進め方とメリット&デメリット」

オリンピック後も施工費用は高値安定、または再度高騰?

東京オリンピックと大規模修繕工事後の施工費用

大規模修繕工事を進める上で気になるのがそのコスト。

昨今の建設工事費の高騰の波は、大規模修繕工事にも影響しています。

数年前まで、東京オリンピックが終われば、建設工事需要が低迷し、需要と供給のバランスから工事費用は急落する、と考えられていました。

ですが、オリンピックが近づくにつれ、東京オリンピック後も工事費用は高値で安定、もしくは再度高騰の可能性も囁かれるようになりました。

東京オリンピック後に工事費用が下がるだろうと、多くのマンション管理組合が先送りした上、通常の周期通りに大規模修繕工事を迎えるマンション管理組合とで需要が高まっているのです。

また、国内マンションストックは増加の一途をたどり、4回目、5回目の大規模修繕工事を迎えようとする老朽化マンションも今後ますます増えていきます。

高まる需要に供給が追い付かず、高値安定、もしくは高騰、という予想がされるのです。

共通する注意事項「コストダウンありき」

このような背景に、「大規模修繕工事では修繕積立金を1円も無駄にしたくない」「次回の大規模修繕工事のためにも少しでも残しておきたい」と思われる方も多いでしょう。

「どの方法をとれば、コストダウンできますか?」「コンサルを入れても、元が取れますか?」そんなお問合せをいただくこともあります。

ですが、大規模修繕工事を進めるにあたって、コストにばかり意識がいってしまうと、いつの間にか「適切な修繕」から「コストダウン」にばかり意識がいってしまい、数字だけがフォーカスされるようになってしまいます。

理事会や修繕委員会にも「本当に削減できるのか?」「トータルでいくら削減できるのか?」といった結果や成果を追求されてしまう空気が生まれてしまうのです。

また、実際の工事の必要性の判断は、大規模修繕工事に直接携わっていない組合員の皆さまにはなかなか伝えられるものではありません。コストダウンの方がわかりやすいのも確かです。

そんな空気が発生してしまうと、理事会や修繕委員会も「必要性ベース」ではなく、「予算ベース」「コストダウンベース」の方向に判断が歪んでしまうこともあるのです。

いかなる施工会社選定方法でも、ここは大きな落とし穴です。

第三者の専門家を採用することなどによって、結果としてコストダウンするケースがあることも確かです。

一方で、管理組合には上記のような傾向もあることから、どの方式を採用するとしても、第三者の専門家導入などのメリットに関しては、定量的なメリットよりも「施工会社や設計事務所、コンサルタントの考え方が管理組合にあっていること」や「施工品質チェック機能の向上」などといった定性的なものを主体としてお伝えしておくといいでしょう。

大事な修繕積立金ですが、コストダウンに気を取られすぎずに、建物の状態に合わせた必要・適切な修繕ができるよう、注意して進めましょう。

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