明治時代に「モダンな建物」とされた住宅は、格調高いレンガ造りの建物でした。
ところが関東大震災の際に倒壊したレンガが人を押しつぶすという惨劇が起こったことで、鉄筋コンクリート造の建物が主流となっていきました。
当初は鉄筋コンクリート造であっても、西洋のレンガ造りを意匠として外周にレンガを張り巡らせた建物も多く見られたようです。
現代も建物の美観やアクセントなど、外壁の意匠としても欠かせない「タイル」ですが、昨今、さまざまな理由で剥落や落下のニュースが相次いでいます。
建物を守る役割を持ちながら、凶器にもなりうるマンションの外壁タイル。
ここでは、外壁タイルのメリットや外壁タイル施工方法に加え、これまで数多くのマンションで外壁タイルの瑕疵調査を行ってきたさくら事務所のマンション管理士が、考え得る外壁タイルの剥落・落下の原因について解説します。
タイル張りは、意匠だけでなく耐久性強化にも一役
戦後の住宅不足に対応して、集合住宅が盛んに建てられるようになりました。ところが当時は「安価な住宅を大量供給すること」を目的としていたので、外装は手間と費用のかからないペンキ塗りや吹き付け塗装などが主流だったのです。
その後、民間業者の手によってマンションブームが起こり、タイル張りの外装が普及。吹き付け塗装よりも高級感のあるタイル張りは、一躍注目されて広まっていきました。
色調や質感が豊富で意匠を凝らせるタイル張りですが、そのほか、機能面でも以下のメリットがあります。
・雨風から鉄筋コンクリートを守れる
・耐熱性・耐火性・防水性が優れている
順に解説します。
雨風から鉄筋コンクリートを守れる
タイルは、雨風でコンクリート内部にある鉄筋が錆びるのを防止する効果があります。
雨水は弱酸性です。大気中の排気ガスなどのアルカリ性の気体が溶け込むと、より強い酸性を示します。酸性の雨水が風で鉄筋コンクリートに吹き付けられることでコンクリート内部が徐々に酸性化し鉄筋が錆びてしまうのです。
タイルは酸やアルカリなどの性質に対して安定性があり影響を受けにくいため、マンションの躯体を守るために適した外壁材といえます。
タイル自体の耐熱性・耐火性・防水性が優れている
タイルは熱・火・水など外的要因に対しても安定性があり、耐久性に優れています。火を使ったり温度が高くなったりしやすいキッチンや水回りなどの内装にも最適です。
長い年数を経ても劣化や変色することがほぼないため、タイル自体はメンテナンスしやすい素材といえるでしょう。
しかし、マンションの外壁に採用する際は、躯体との接着部分やタイル目地の劣化は避けられません。タイル自体の耐久性は高いですが、タイル張りの外壁はメンテナンスフリーではないことを覚えておきましょう。
外壁タイルは3種類の素地に分類される
タイルには多様な種類がありますが、以下3つの素地に分類されます。
・磁器質
・せっ器質
・陶器質
それぞれ焼くときの温度が異なり、磁器質・せっ器質・陶器質の順に高温です。高温で焼くほど高温でタイルは硬くなり吸水率が低くなります。
ただ2008年にJISが改定され「I類(吸水率3%以下)」「II類(吸水率10%以下)」「III類(吸水率50%以下)」といった新しい分類に変更され、呼び名が混在しているのが現状です。
外壁に適しているのは、硬く吸水率が低いI類とII類、磁器質とせっ器質のタイルで、III類や陶器質のタイルはおもに内装に使われています。
マンション外壁の吹き付けタイルはタイル張りではない
吹き付けタイルはタイルではありません。吹付タイルとは合成樹脂とモルタルなどを混ぜ合わせた材料を吹き付ける塗装仕上げのことです。
通常の塗装仕上げよりもツヤがでて汚れが付着しにくい利点がありますが、タイルほどではありません。再塗装のメンテナンスを怠り塗装が剥げたりひび割れたりすると、鉄筋コンクリートの中性化も起こりやすくなります。
タイルは塗装が不要ですが、吹き付けタイルは定期的な塗装が不可欠です。
吹付タイルはタイルに劣る点もありますが、施工費用はタイル張りよりも安価で色の選択肢が多く模様も付けられるため、広く使われています。
マンションの外壁タイルの張り方
ここでは外壁タイルの基礎知識として、タイルの2種類の張り付け方法とタイル割りについて紹介します。
おもな張り付け方法は「湿式工法」と「乾式工法」
タイルの張り方は、サイズや重さ、形状などによって多様ですが、一般的にマンション外壁で使われるタイルには「モザイクタイル張り」と呼ばれる湿式工法で行われています。
3枚×6枚で1つのシートになっているタイルをモルタルで張っていきます。工程としては、コンクリートの壁に接着するための「張り付けモルタル」を塗り、この1シートになったタイルを押し付け張っていきます。
もうひとつの張り付け方法は乾式工法です。
凹凸のある専用の下地にタイルを引っかけたり、下地用のサイディングに専用の接着剤でタイルを張り付けたりすることで固定します。
乾湿工法は湿式工法よりもコストはかかりますが、技量による品質の差が出にくく作業時間を短縮できることがメリットです。
タイル割りがマンションの美観の生命線
タイルを美しく張るために「どの面にどのタイルを張るのか」をプランニングすることを「タイル割り」といいます。マンションで一般的に使われるタイルは45二丁掛(よんごにちょうがけ)と呼ばれるもので、縦が45mm横が95mmの大きさ。これに目地の幅5mmが加わって50mm×100mmのサイズになります。
このタイルを均一に貼っていくと、どうしても半端な数字が残ります。この余った半端な部分を、いかに美しくに納めるかがセンスの見せ所。以前はそのため、壁を厚く塗る場合もありました。
例えばこのタイル割では、右端に55mmの幅にカットしたタイルが入っていて、見映えがよくありません。このようなタイル割りは、センスが悪いとされています。
そこで左右の壁を20mmずつモルタルで塗ることで、半端にカットしたタイルを入れないことで美しい仕上がりになります。
昨今ではこれほど極端に見映えを重視して、壁をモルタルで塗る例は減りましたが、かつてはこうした手法も一般的でした。
マンションの外壁タイルの補修方法
マンションの外壁タイルの補修方法は2種類あります。
ひとつ目は、問題のあるタイルを剥がして新しいタイルに張り替える方法です。タイルに欠け・ひび割れ・剥がれが見られるときに採用されます。
ふたつ目は、既存のタイルを接着剤とアンカーピンで固定しなおす方法です。タイルの浮きを補修するときに選ばれます。
具体的な補修手順については下記記事で紹介しているので、参考にしてください。
外壁タイルの補修方法と相場を解説!ひび割れ・浮き・剥がれは要注意へ
【事例】マンションの外壁タイルは剥落に注意
1989年、福岡県北九州市にある10階建ての「昭和町団地」で起きたタイル剥落事故がきっかけで外壁タイルの剥落が注視されるようになりました。
最上階付近から31m下にタイルが落下し、通りかかった通行人に当たってしまい2人が死亡し1人が重傷となってしまったのです。
なぜこんな大惨事になってしまったのでしょうか。
このタイルは5m×8.5mもの広さで、タイルとコンクリートの間に塗られていたモルタルごと剥がれて落下しました。落下したモルタルとタイルが、巨大な重量となって通行人を襲い痛ましい事故となってしまったのです。
施工不良による外壁タイルの浮きや剥落が多発している
さくら事務所の外壁タイル調査の結果、施工不良や新築時の配慮不足が原因で、不具合を起こしているケースが多く見られます。
さくら事務所が2019年から2023年に手掛けた事例を精査すると、2007年と2008年(竣工されたマンション戸数がピークの年)に竣工したマンションで外壁タイルの浮き・剥落の危険性が高いことが判明しました。
不具合を起こしている原因の一例として以下3つを紹介します。
・躯体の表面がツルツルで剥がれやすい
・モルタルが十分に硬化せずに強度が弱い
・目地の不具合でタイル浮きを起こす
順にみていきましょう。
躯体の表面がツルツルで剥がれやすい
外壁タイルの接着性を高めるためには、コンクリート表面に細かな傷をつける目荒らしが効果的です。コンクリート躯体の表面がツルツルですと、モルタルが付着しにくく、外壁タイルの浮き・剥落につながりやすくなります。なぜツルツルの表面になるのかというと、コンクリートを固化する際に型枠に使っているコンパネ(厚手のベニヤ板)が、剥がしやすくする目的でツルツルの表面になっているため、コンクリートの表面もツルツルになり、タイルを張るために塗ったモルタルが剥がれやすくなるのです。目荒らしをしていても、キズが粗いなど、十分ではない場合は、剥落の一因となります。
モルタルが十分に硬化せずに強度が弱い
「下地調整モルタル」「張付けモルタル」を塗る際には吸水調整剤を塗り、モルタルに含まれる水分が吸われないよう対策するものですが、 塗り忘れた場合、モルタルの水分が吸い取られ、十分に硬化せず「ドライアウト」を引き起こすことがあります。十分に硬化していないモルタルは強度が足りないため、時間とともに剥離が始まります。
目地の不具合でタイル浮きを起こす
外壁には「コーキング材」と呼ばれるゴムのようなものが詰まった目地が入っています。その目地の上からタイルを張ると躯体の動きでタイルが割れてしまうことがあります。また、必要な箇所に目地が入っていないことでタイルが浮いてくることがあります。
マンションの外壁タイルは、建築基準法第12条の特定建築物調査で「3年以内に一度手の届く範囲の打診等」「おおむね10年に一度の全面的な打診等」をおこない報告することが義務付けられています。
定期的に調査しているから大丈夫と安心しているかもしれませんが、報告することが目的となり、調査が形骸化し意味をなしていないケースが多いのも事実です。
実際タイルに不具合があったマンションでも、打診調査でタイルの異常を見つけられた事例はあまりありません。
検査をしても異常を見逃していたら意味がありません。外壁タイルの事故を防ぐためには、3~5年程度で手の届かない範囲の外壁タイルのサンプリング調査で、状況を把握しておくことをおすすめします。
外壁タイルの浮き・剥落は専門家に相談を
外壁タイルは意匠性が高いことから人気がありますが、耐久性が優れ雨風から躯体を守るなど機能面でのメリットもあります。
しかし、外壁タイルこそ定期的にしっかりとした調査をおこなわなければ、命にかかわる重大な事故に繋がるため十分注意しましょう。
タイルの不具合は経年劣化が原因のケースもありますが、残念ながら施工不良も多く見受けられます。本記事では3つのタイル不具合要因を紹介しましたが、あくまでも一因です。
外壁タイルの剥落は、複数の要因が重なって発生します。施工不良かどうかを確認する場合、剥落したタイルの状態などを詳しく調査しなければいけません。
さくら事務所では、瑕疵・欠陥トラブル解決のサポートをしています。外壁タイルの剥落や浮きの原因調査から、施工不良が見つかった場合の分譲会社や施工会社との折衝まで、根気強くサポートいたします。
・特定建築物調査の結果を詳しく説明してもらえない
・タイルの不具合の原因調査がおこなわれない
・まだ築年数が浅いのに外壁タイルが落ちた
・外壁タイルが浮いている範囲が広く膨大な修繕費用を請求された
上記のようなお悩みがある方は、ぜひさくら事務所にご相談ください。
また以下の動画でも、外壁タイルの点検時期について詳しく解説しています。
「外壁タイルが浮いてるけど不安…」「相談してもちゃんと対応してくれない」こんなケースはありませんか? 13の事例とともに「外壁タイル問題の傾向」「要因」「対応方法」を整理していますので、ぜひ参考にご活用ください。
外壁タイルの瑕疵調査・補修コンサルティング