多くの分野で人手不足が叫ばれている今、マンション建設の現場でも「人手不足」は深刻な問題となっています。
マンションの建設をはじめ、完成した後に定期的に行う大規模修繕工事など、建物を維持・管理していくには多くの人手が必要です。
現在の深刻な人手不足に至るまでには、いくつかの経済・社会の変化が大きく影響しています。
1980年代中期から90年代初頭にかけて、マンションは飛ぶように売れました。
営業をする間もなく不動産業者には電話が相次ぎ、大手不動産業者の受付にはマンションの販売情報を求めてひっきりなしに訪れる人がいました。ところがバブル経済が崩壊すると、様相は一変します。
1990年代半ばー工事費の大幅な変化
85年以降に始まったバブル景気の頃、建設業界は人手不足に悩んでいました。仕事はあるのに人手が足らず、職人の現場の掛け持ちなどは当然のように行われていました。
当然ながら職人の手当ても上昇し、中学校を卒業して建設業界に入った20代の職人などは、同世代のサラリーマンよりはるかに高額な給与を得ていました。
しかしバブルが崩壊すると仕事は激減し、工事費も安くなりました。90年代半ばには、職人の手当てはコンビニのアルバイトと変わらないと揶揄されるほどになります。そのため若手の職人の離職が増えて、職人の高齢化が急速に進みます。
2008年ー建設業者の冬の時代
工事費が安くなっても、建設業者はなんとか会社を維持していました。しかし2008年のリーマンショックは、そのなんとか生き延びていた業者に強烈な打撃を与えます。
さらに2009年には政権交代が起こり、鳩山政権は「コンクリートから人へ」を掲げて公共事業の削減を目指しました。建設業者にとってリーマンショックで資金繰りが悪くなったところに、仕事も減ることになったわけです。建設業者の廃業が相次ぎました。
2011年ー東日本大震災の発生 急激な工事の増加
2011年の東日本大震災は、まさに建設業者の廃業が相次ぎ建設業の職人が減った時に起こりました。
関東の職人の多くは東北に行き、関東の建設現場は関西から人を集めるなど、人をめぐって慌ただしい状況が続きました。
2012年には安倍政権が発足し、それまでの民主党政権の方針を転換して公共事業の拡大を宣言しました。
これにより、さらに人手不足が加速しました。2013年には東京オリンピックの誘致が決まりますが、この時には建設業者の間で「オリンピックに向けて工事をする人がいないのでは?」という声があがりました。
リーマンショックなどによって建設業者が一気に減った直後に、今度は急激な建設業の需要が生まれたため、深刻な人手不足に陥ったのです。
そして2018年ー人手不足解消の目途が立たず
もともと高齢化が問題視されていた建設業界では、リーマンショックで引退した高齢の職人が再び建設現場に戻ることはありませんでした。
しかし若手も3Kと言われて給与もさほど高くない建設業に魅力を感じず、人手不足が続いています。そこでたびたび外国人の労働力が話題になるのです。
人手不足は施工力の低下を生み、ゼネコンにとって頭痛のたねになっています。オリンピック後には人手不足も建設費の高騰も落ち着くという意見もありますが、そもそもリーマンショックで人手が減ったことが発端ですから、オリンピックだけの問題ではないのです。
工事費に振りまわされない判断を
このような人手不足は、建設費の高騰のひとつの要因となり、住宅の購入や大規模修繕工事などに大きな影響を与えています。
もちろん費用は重要な問題です。しかしお金だけで判断していては、大事なことを見落とす危険性も。
建設費が安くなるという見込みから、東京オリンピック後に大規模修繕工事を予定する組合が増えていますが、症状が進行してからよりも、場合によっては早めに実施しておいた方がむしろ出費が安く済むケースもあります。
このように先が見えない時代だからこそ、適切なコンサルティングが求められています。
工事費のことだけではなく、現在のマンションの問題の有無や状況を把握したうえで、どのような工事をいつ行うかの判断が重要になっているのです。